古谷経衡『クールジャパンの嘘』の揚げ足どり(1)

古谷経衡『クールジャパンの嘘』が酷い本でした。

 

クールジャパンの嘘―アニメで中韓の「反日」は変わらない

クールジャパンの嘘―アニメで中韓の「反日」は変わらない

 

 感想を一言で書くと「ゴミ」、読むのは時間の無駄、買うのは金の無駄なのですが読んでしまったので、飽きるか忙しくなるかするまで延々と揚げ足を取ろうと思います。私だけが理不尽な怒りにかられたのでは面白くないので、皆様にもお分けします。

 

さて著者は前書きで

アニメオタクとして齢三十数年を生きてきた(P.3)

 と豪語しているんですね。果たして1982年生まれの著者が「アニメオタクとして齢三十数年」と書いていいのかという気もしますが、それ以前にアニメオタクと書いているのにマンガ・アニメ関係で単純な間違いが多い。以下列挙すると

 

1.『セーラームーン』の連載誌

 ちょうどその時期に(注:1990年代初頭)、『セーラームーン』『スラムダンク』『ドラゴンボール』など所謂ジャンプ黄金期を支え(P.28)

 『セーラームーン』はジャンプ連載ではなく、なかよし連載(1991年から)

 

2.ジャンプ黄金期の認識

週刊少年ジャンプ集英社)が1995年3-4号において、635万部を発行したのを絶頂として、特に85年代後半から90年代末期までの期間を指す(P.28) 

 大泉実成『消えたマンガ家 ダウナー系の巻』P.215のデータを見ると95年に600万部を割り込み、97年には週刊少年マガジンに発行部数で抜かれている。97年を90年代末期というのは人によるとは思いますが、90年代中盤がデータとしても正しいのでは。

ひょっとすると『るろうに剣心』がアニメ化されていたからそういう風に考えたのかもしれませんが…

 

3.結局どっちなんだ

森見登美彦原作の『空中ブランコ』(P.51)

森見登美彦原作は『四畳半神話大系』。『空中ブランコ』の原作は奥田英朗

このミスの何が酷いって前ページでノイタミナアニメについて

「萌え」「美少女趣味」などの秋葉系とは対極的にある、サブカル愛好層(後に詳述する中野系) を強烈に意識したラインナップになっており、現在でも優良作品を連発して人気を博している 

と書いているのに間違っているところ。しかし『あの花』に「萌え」「美少女趣味」がないとは思えないのですが。

ちなみに月刊アニメスタイル6号(2012年2月発売)に当時ノイタミナ編集長だった山本幸治氏がインタビューを受けていて、その中でこんなやり取りをしている。*1

小黒 ここ最近のノイタミナ枠のいちばん大きな変化は、いわゆる「アニメっぽさ」を抵抗なく取り入れるようになったことですね。『UN-GO』のキャラクターなんかはまさに、作品内でやっていることはともかくとして、アニメ誌のグラビアに大きく掲載されそうなキャッチーさがある。『ギルティクラウン』は内容的にもアニメファンのストライク狙いですよね。これはどうしてなんですか。

山本 僕の中では『二十面相の娘』をやってたときから、ずっとつながってるんですよ。僕は「ネオ萌え」と呼んでたんです。絵柄だけで安直に「萌え」を狙うのではなく、キャラクターの人格みたいなところを含めて萌えられるようにしたい。(中略)僕らが変わったというよりは、「萌え」が一般化したというか、周囲が(アニメっぽい絵柄を)受け入れるようになってきたんですよね。普通の人もアニメを観るという状況が、ノイタミナ枠を立ち上げた当時からすると劇的に増えている(後略)(P.103)

 というのが実態ではなかろうか。著者のノイタミナ観はかなり古いという感じがします。

 

4.P.188注釈のマッドハウスの欄

 近年では『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)など、「ポスト宮崎駿」の呼び声高い細田守監督の作品などを多く手掛けるほか

おおかみこどもの雨と雪』の制作は監督が作ったスタジオ地図。マッドハウスはプロダクション協力として参加。さらに

マイマイ新子と千年の魔法』(2006年)

マイマイ新子と千年の魔法』の公開年は2009年。

なお『マイマイ新子と千年の魔法』は大傑作なので皆さん観ましょう。

 

5.P.189注釈のプロダクション・アイジー

近年では諌山創原作の『進撃の巨人』がクリティカルヒットを生むなど、注目されている

進撃の巨人』の制作はプロダクション・アイジーから独立したWIT STUDIO。プロダクション・アイジーと同じIGポートの子会社ではありますが、プロダクション・アイジー制作というのは違うでしょう。

 

6.P.242注釈『王立宇宙軍オネアミスの翼

ちなみに、本作の続編『蒼きウル』はバブル時代に計画されたが、その都度経済環境などにより何度も沙汰止みになっており、本作のファンは制作を待ち望んでいるが、2013年現在、続編の企画がスタートする気配はない。

 

mantan-web.jp

再始動されるよ! よかったね!

しかし謎なのは、この本は2013年4月に同じ出版社から出た本が好調だったため出版計画が出たということ。上のニュースは2013年3月に出ているので、執筆時に知ってないとおかしいのでは。熱心なファンならチェックしようよぉ(CV:瑞鳳)。というか、そもそもちゃんとニュースをチェックしてるのか。

 

あまりアニメに詳しくない私でもこれだけ見つかりましたが、もしかすると「大事なのは作品の質であって、細かいデータは間違っても問題ない」と思われる人がいるかもしれません。

しかし私は

1.好きなジャンルなら間違いがないようにしようという意識が働くのでは?

2.自分を「アニメオタク」という以上は細かいところまでチェックされる可能性がある

3.そもそも細かいデータに拘るのがオタクなんじゃないの?

と思ってますので、この時点でオタクとしては致命的とは言い過ぎだとしても、かなり酷いと思います。

 

さて、得意分野でこんなんだった人が苦手分野でどんな風になってしまうかは、次に書きます。

月刊アニメスタイル 第6号 (2012年2月)

月刊アニメスタイル 第6号 (2012年2月)

 

  

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

 

 


「マイマイ新子と千年の魔法」90秒プロモーション映像 - YouTube

*1:インタビューアーはアニメスタイル編集長の小黒祐一郎