古谷経衡『クールジャパンの嘘』の揚げ足どり(2)
(1)はこちら
前回の続きです。
著者によるとアニメには2種類あって「オタクの性欲を優先する作品=秋葉系」「そうではない、世界で評価され受け入れられる作品=中野系」だそうです。そんなラーメンみたいな分類をされても困るのですが、今回の主題はそこではないです。ただ
では一体、アニメに疎い一般大衆や政府のお歴々が想定するような「ドラえもん、ゴルゴ13、ヤマト、ガンダム」に代表されるような「非秋葉原」の作品はどこに集積しているのだろうか(P.188)
と書いてあるのを読むと、5年前から秋葉原駅電気街口を出て右のところにあるガンダムカフェというのは一体なんのカフェなのか疑問に思ってしまいます。ガンダムに興味がないので行ったことないのですが、あそこはガンダムのカフェではないのでしょうか。
話を戻します。
著者によると秋葉原がオタクの性欲を充たす街になった原因は『ときめきメモリアル』の大ブレイクによるものだそうです。あとアニメファンが二次元女性で性欲を充たす人と誤解されるようになったのは『ときめきメモリアル』と『新世紀エヴァンゲリオン』のブームが重なったからだそうです。
で、著者は美少女ゲーム業界には詳しいわけではないと書きつつ以下のように書きます。
1995年、1996年の『ときメモ』の大ブームを嚆矢として、さらに過激な恋愛シミュレーションゲーム(ギャルゲー)が展開されていくことになる。すなわちそれは、15禁、18禁ゲームの隆盛であった。1996年には株式会社エルフが15禁恋愛ゲーム『下級生』を発売、次いてアダルトゲーム会社アクアプラスが1997年5月に発売された『to Heart』(原文ママ)、そして、株式会社ビジュアルアーツが発売した『kanon』(原文ママ)(1999年6月)、『AIR』(2000年9月)、などが間髪入れず大ヒットとなり、その所謂「二次元愛好者」が、基本的には『ときメモ』の商業的大成功を端緒として市場に流れ込み、その愛好者たち(異性にモテない内向的オタク男子)が学校にそういった手のソフトやグッズを次々と持ち込み始めたのである。(P.203~204)
先に述べたとおり、アダルトゲームの黎明が、『ときメモ』を嚆矢として、やがて18禁といったより過激な内容に変貌していく中で、プレイステーションやセガサターンといった大衆的なハードゲーム機ではなく、Windows95あるいは98によってその培養とされ、さらに過激なアダルトゲームが開拓されたことを鑑みると、必然的にアダルトゲームの愛好家達は、自宅でのPC保有が大前提となる。(P.207)
もはや間違いが多すぎて間違い探しにすらならないのですが、これは。
『To Heart』『Kanon』『AIR』は恋愛シミュレーションゲームではないのですが、それ以前に時間軸が滅茶苦茶すぎます。エロゲーの嚆矢が『ときメモ』なんて初めて聞きました。
著者は秋葉原について書いていますから当然、森川嘉一郎『趣都の誕生』 には目を通していると思いますので知っていると思いますが、美少女ゲームというよりエロゲーは80年代前半にはもう存在しています。
また1992年にはエルフから『同級生』という怪物的なゲームが出ていますし、アリスソフトが開発し、今もシリーズが続いている『ランス』シリーズは1989年に第1作が発売されています。
私も美少女ゲームに詳しいわけではありませんが、上にあげた例から言っても『ときメモ』がエロゲーの嚆矢となったとは言えないと思います。あと、セガサターンは一時期まで18禁のゲームがあったのでは。
さて美少女ゲームもといエロゲーですが、ポルノとして作られたものも多くありますが、その一方でポルノよりもシナリオに魅せられるゲームがあった事は、著者は当然、東浩紀『動物化するポストモダン』を読んでいるはずですから分かるはずだと思いますが、軽く触れたいと思います。
とはいえ、実は上にあげたゲームはやってないので*1、私が何かを言える立場ではないのですが、例えば2001年か2002年のダ・ヴィンチに掲載された古書店主のコラムを引用しましょう。『終末の過ごし方 オフィシャルアートワークス』(新声社)を取り上げたものです。
かつての怪獣番組や、日活ロマンポルノがそうであったように、このエロゲー界にも若くて素晴らしい才能の持ち主たちが集まっています。私たちが昔、想い入れていたものと、 メディアの違いこそあれ、その熱い気持ちは同じだと思います。そして将来、彼らがメジャーシーンで評価された時に、私は彼らの若き日の習作に、リアルタイムで触れることができた喜びを感じることができるのでしょう。
この古書店主さんが今どう思っているかはともかく、エロゲーのシナリオライターは例えばアニメの脚本家として
虚淵玄(『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS』
麻枝准(『Angel Beats!』、2015年作品ですが『Charlotte』)
がいますし、ライトノベルや漫画原作では
タカヒロ(『アカメが斬る!』)
といった方々が活躍されています。
また、この本が出たのは2014年なので取り上げるのはアンフェアなのですが、エロゲーである『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(1996年発売)がなぜ今頃になって移植されるのでしょうか。もし、ポルノグラフィーとして楽しむのであれば、規制の強いPS4やPS Vitaで移植されないでしょう。
まぁそういうことです。
それにしても著者は『魔法少女まどか☆マギカ』の解説本*2に寄稿していたはずなのですが、シナリオライターの経歴から美少女ゲームについての自分の思い込みに気づかなかったのでしょうか。あとその歴史についても。
もしかするとマンガ評論家の伊藤剛氏が
これは学生さんにも多い反応なんだが、オタク文化が「最近のもの」と錯覚されがちなのはなぜなのか? という問い方をしたほうがよいように思う。 「最近のもの」とするひとも、多くは「知って」はいるのだろう。だが7~90年代の知識としては知っているあれこれと現在が結びつけられていない。
— 伊藤 剛 (@GoITO) 2015, 11月 11
だから「そんなことも知らないのか」では話が進まない。もちろん、もとより無知からくる誤解もあるのだが、その場合は次に「なぜ過去の記憶が継承されていないのか」「なぜオタク文化は歴史化されず、たえず『いま、ここ』のものとされてしまうのか」が問われないといけない。
— 伊藤 剛 (@GoITO) 2015, 11月 11
とtwitterでつぶやいていましたが、そういうことなのかもしれません。
しかし仮にも「評論家」で飯を食っている人がそれでは困ってしまいます。勉強してないという自覚はあるのなら、なんで勉強しなかったのかなぁ。
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これ読んでないのです。