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『ミッキーマウスはなぜ消されたか』の疑問、もしくは『ひぐらしのなく頃に』の話

 安藤健二ミッキーマウスはなぜ消されたか』は著者が元本に収録された原稿は玉石混淆だったと書いていて、文庫化に当たって原稿を差し替えたとあります。では、その差し替えた原稿が素晴らしいのかというと、個人的にはそうでもないかなと思いました。もっとも元本との比較をしてないので、元本を読めば感想は変わるかもしれませんが。

 さて、その文庫化によって収録されたものに「『ひぐらしのなく頃に』は殺人犯を育てる悪魔のコンテンツなのか」というルポがあります。これは2007年から2008年に未成年の少年少女が親を惨殺するという事件があり、加害者の少年少女が『ひぐらしのなく頃に』のマンガを持っていたことからマスコミで「これに影響を受けたのでは」と話題になりアニメが放送中止になったりした騒動を追ったものです。

 で、著者は実際に『ひぐらしのなく頃に』をプレイし、現行の締め切りに間に合わないと思ってからアニメやマンガで内容を調べ、殺人犯を育てるような作品とは思えないという感想を持ちます。*1

 では、なぜそのような言説が流れてしまったのか。記事を書いた記者は『ひぐらし』をプレイしたことがなかった、というありがちな話が出てくるのですが、問題はその後。ネットでも「『ひぐらし』の影響だ」とする声があり、そこから「オタクの中でも『ひぐらし』のヒットを望まない人間がいるのでは」と著者は考え、オタク文化に詳しい出版関係者に話を聞いているのです。で、その話になんだか違和感を覚えたのです。ここに来るまでが長いな、おい。

 というわけで、出版関係者の話。まず現在(というのは2009年のことだが)の『ひぐらし』のファン層についてこう語っています。

 現在の『ひぐらし』のファン層の中核は、12〜15歳です。中学生の男女に圧倒的な支持を受けています。それは『ひぐらし』の根底に流れているテーマが、『一人で悩まず、仲間に相談して問題を解決しよう』というコミュニケーションの問題を扱っているからです。ベストセラーとなった『キノの旅』もそうですが、『いかに生きるか』というテーマは、中学生にはすごく受けます。『中二病』なんて言葉も生まれるくらい、人生に悩む多感な時期だからです。ところが、20代でアニメのDVDを買いそろえている、世間でよく秋葉系と認知されているオタク層には、『ひぐらし』はあまり人気がないんです。むしろコアなオタクになるほど、『ひぐらし』を忌み嫌っています。

 この時点で首を傾げたくなるのだが、話を続けます。

 オタク層って、一般的に思われているような一枚岩ではないんです。世代ごとに好きな作品をはっきりと住み分けています。20代のオタク層に人気の作品は、あるパターンにのっとったものがほとんどで、そのパターンを外すと売れません。それは、男性主人公が、強い女の子に無条件に慕われて、その子に身辺を守ってもらうというものです。その典型例が、相田裕の『ガンスリンダー・ガール』という作品です。

 この文章が発表されたのが2009年で、事件が起きたのはその前の2007年から2008年です。正直言って、この関係者の認識は古くないか、と思うのです。この辺りでオタク層に受けた作品って『らき☆すた』(アニメ化が2007年)とか『ストライクウィッチーズ』(2008年)、あと『魔法少女リリカルなのはStrikerS』も2007年ですが、これらの作品は主人公が男性ではない、それどころかメインキャラに男性がいない。あと遡れば『コードギアス』もありますが「これだって強い女の子に無条件に慕われる」話ではない気がします。見てないので実際はそうなのかもしれませんが。なんだかアニメに偏ってしまいましたが、少なくともアニメだけを見れば関係者の話がずれている気がします。関係者の言う作品も人気はあったのかも知れませんが、主流ではなかったのではないかと。その後に来たのは『けいおん!』だしなぁ。

 さて、その後『ひぐらし』には恋愛要素がほとんどないのでは、と著者が質問をすると

 その通りです。一般的な美少女ゲームのように、可愛らしい女の子に男性主人公が囲まれていますが、それは偽装で、中身はまったく別物です。同人ゲームとして売る上で、オタク層の目をひきつけるために共通言語を使っているだけです。実際には可愛い女の子が主人公を守るどころか、鉈や斧を持って追いかけてきます。ストーリーは謎だらけで、どう展開するか先が読めません。プレイヤーの精神に与える負荷が高いんです。20代に受けるオタク文化のコンテンツは、基本的に『苦労しないで女の子に守られて恋愛し、性欲を満たしたい』と、男の快楽原則に忠実に出来ています。その点で、『ひぐらし』は完全にパターンから外れているんです

 と答え、最終的には

20代のオタクは、つらい現実から逃れるための作品を求めています。ゲームやアニメに興じる時間は現実逃避であり、貴重な時間を裂いてまでイヤな思いはしたくない

という事を話しています。

 まぁ、疑問は多々あるのですが、そもそも20代のオタクが『ひぐらし』を嫌っているという説がすごく疑問なんですが。『ひぐらし』が発表されたのが2002年。そのあと口コミで広がっていったのですが、私がネットで見た感じではそんなに低年齢層ばかりがやっていたとは思えないのです。むしろかなりのオタクが熱心にやったのではないでしょうか。面白いサスペンスミステリーと称えていたのではないかと思います。推理用の掲示板だって賑わっていたのではなかったかしら。

 もし『ひぐらし』にアンチがいるとすれば、それは上記のような理由ではなく「ミステリだと思ったのに裏切られた、フェアじゃない」という理由からではないかと思うのです。プレイしてない私がこういうことを書くのもどうかと思いますが、そういう批判をネットで見ましたので。そういう思いをした人たちが熱心なアンチになったんじゃないのか、と推測した方がいい気がします。

 とはいえ、『ひぐらし』はプレイしたこともアニメを見たこともないので、実際にはどうなのか分からないのです。自分の皮膚感覚としては違和感があるけど、実際には関係者の言う通りかもしれません。


 というか、この関係者の話は「20代のオタクは現実逃避ばかりしてけしからん」という話でしかないよなぁ。つい先日も『けいおん!!』や『魔法少女まどか☆マギカ』を例に上げて同じような批判をしている人を見ましたが、こういうのを見ると「オタクは現実逃避ばかりしている」という批判があって、そこから作品の「現実逃避」になりそうなところを当てはめているようにしか思えないんだが。

*1:なお最終的には、最後までプレイしています。